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2024.07.27

音楽科

『一音想伝』

校内弁論大会が開催され、音楽科からは2年生の渡会 雅さんが弁士としてステージが立ちました。渡会さんは弁論大会に桜丘中学校時代より連続出場していて、今回で5回目となりました。ピアノソロと連弾で3つのコンクールに於いて予選を通過、8月に開催される本選会に向けて毎日燃えてピアノの練習をしています。何事も頑張る渡会さんの今回の弁論のタイトルは『一音想伝』。全文をご紹介いたします。  (文責: 野畑さおり)

 

『一音想伝』

 

自分の未来の事など考える事は出来ず、当時の私は目標を持つことすら出来ずにいた。不安の波が押し寄せて来た。今思えばそれは暗闇にいるかのような世界。悶々と過ごす時間が増える中、私の音楽の原点とは何かを考えた。
私は一歳の頃、近くの音楽教室に通い始めた。話すことがまだ出来ない当時の私が「習いたい」と言ったかどうかは疑問だが…。
リズムに乗って体を思い切り動かし、聞こえてくる音をドレミで歌う。覚えたてのメロディーからイメージはどんどん膨らみ、体全部を使い表現した。連なる音符をたどれば、それは言葉になり、自分だけの世界が無限に広がっていく。楽譜がまだ書けない私はそのイメージを絵に描いた。どんな色でもそれは私が感じた世界。そこに不正解はない。とにかく楽しかった。私はいつの間にか音楽に夢中になり、気が付けば今日まで音楽と共に過ごしていた。
ようやく再開されたコンクール。参加者は皆、華やかなドレスを着てピリピリとした緊張感に包まれ必死だ。ここには同年代の音楽を学ぶ学生の様々な表情がある。
一発勝負の本番のステージ。一歩舞台に出れば、そこにはピアノと自分一人。緊張でいつも手は震え冷たくなる。ピアノの前に座り、深く深呼吸。気持ちを落ち着かせ、曲の始まりの第一音に集中する。そしてホールに響く自分の音を感じながら聞いている方々に演奏曲の世界を精一杯、「音」で伝える。演奏後はいつも自身の演奏を振り返り反省や後悔、そして次への欲が湧き上がり「終わり」を感じる事はない。ところが昨年、私はいつもと違う感覚を初めて味わう事が出来た。
 それは合唱コンクールでの事。いつもは一人で弾くピアノだが、この時は伴奏者として皆の歌声と共に弾く。この日も本番前はいつもと同じように緊張した。だが、いつもと違う。舞台袖にはたくさんの仲間。そして皆、緊張しているにも関わらず私に声をかけてくれる。「大丈夫」「私達なら出来る!!」
いざ、舞台へ。歌う曲は「あなたへ」。指揮者が両手をあげ、全員にサインをくれる。皆、集中していた。私は皆が迷わないような伴奏を心掛けた。独りよがりの演奏にならないように、そして歌を支えられるように、全神経を耳に集中させた。皆の呼吸が聞こえた。歌詞の素晴らしさを伝えようとしている気持ちも感じた。
「人生という名の迷路。信じあえる喜び、悲しみを知った分 優しくなれる」
この「あなたへ」の歌詞はコロナ渦を経験した私達に重なる部分も多く、だからこそ、この曲を一層理解しそれを伝える事ができたのではないだろうか。 最後の一音を弾き終えたまさに同じタイミングでホールには皆の気持ちが一つになった声が広がっていた。これほどまでに感動した経験はなく私はあの時、響き渡った歌声をこの先忘れる事はないだろう。
 ある大作曲家はこう言い残している。
「音楽によって人生が豊かになるように。
そして幸せをわかち合う助けとなるように」
 私にとっての「音楽」 
それは美しい音で演奏する事だけではなく、作曲者がそこに込めた感情や情景を私自身が、より理解し、その「心」を感じる事。そして私が奏でる音が聞いてくれる人の「今を生きる力」になればと思う。その為に私は、より一層真剣に音楽と向き合い、自身の音を磨き、演奏に活かしていきたい。
これからも私は音楽と共に生きていく。

 

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